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野村総研からの提言

【第1回】PCは「維持管理」してはいけない[更新:08/01/15]

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岡崎 誠
株式会社野村総合研究所
主席システムコンサルタント

これを御覧になっている読者の方は、企業内にばらまかれたPCの管理にかかわっておられる方々、もしくは企業内の情報システム部門の管理職、CIOなどの方々であろう。

PC管理は、ホスト、サーバなどの他のIT機器とから見ると特異な位置付けにある。このためPC管理は他者にはわからない特別なご苦労がある領域である。

PC管理が生まれて15年

PC管理という概念はPC、厳密にいうとWindowsPCが日本のオフィスの道具として導入された約15年前に遡る。PC導入により「情報化が推進される」、「社員の仕事の付加価値が増える」、「業務の生産性も格段に上がる」など、ことさらにポジティブな面がクローズアップされていた時代だ。 だれもがその夢に取りつかれ、「PC」の「管理」がこんなにも大変だと想像していなかった。


ところが大量のPCをオフィスに導入してしまった途端に、各企業は大変なことに気づいた。つまり今まではホストやサーバといった集中管理ができていたものと異なり、ユーザ側に設置され、その場所さえ日々変わってしまう(モバイルPCなど)モノの管理、情報システム部門から直接見ることができないモノの管理をせざるを得なくなったということである。

その結果、この時代、昔はパソコン少年だった者が一躍職場でのヒーローとなった。彼らは同僚が使えなくて困ったり、使えなかったりするとたちどころに呪文のようなコマンドを打ち込み、場合によってはPCを分解したりまでして修復をしたものだ。


ただし、職場のヒーロー達がすべての問題を解決してくれた訳ではなかった。


各企業が慄然としたのは、PCの陳腐化スピードが恐ろしく早いということだった。

  

PC導入してから何年か経つと市場には導入当時では考えられないほど高性能なPCが市場に出回り、次々とOSは進化しOfficeの動作は重くなる一方であった。 また従来のいわゆるホストとつながる「端末」と異なりPCだからエンドユーザ側も情報を得やすく、「何でこんな遅いPC使っているんだ」などというクレームが出る。結果として想像していなかった「PCリプレース(更新)」という大仕事をやらなくてはならない羽目となった。


更にPC管理者を悩ませているのが「PC資産管理」という厄介な代物だ。

資産管理の定義やレベルにもよるが、実のところこれを完璧に行っている企業は決して多くはない。黎明期にはどの企業も「PC資産管理」などという概念もなく、ましてや「現時点でのPCの数が分からない」などという事態が起こることは想像もつかなかったであろう。


この時期あたりからPC管理という概念が構築され、各社なりの工夫がなされてきた。

PC管理は進化しているのか?

筆者も複数の企業のPC管理の関係者の方々とディスカッションすることが多いが、それらの中で改めて思うのはPC管理そのものの発祥は当初からの予測した上で設計されたものではなく、事後発生的に序々に確立されてきたものであるということだ。

その結果として「つぎはぎ」的な管理体系となっており、場合によっては同じ社内で事業所毎や事業部毎に管理の方法や管理・サービスのレベルがまちまち、などということが散見される。


「それでいいじゃないか。 別になにも起きるわけでなし。」という考え方もあろう。

ただ、昨今のPCに絡む「セキュリティ」や「内部統制」の問題や、「ばらばら管理」、「つぎはぎ管理」によるコストロス、分割損などを考えると「放置して良いのだろうか・・・」との疑問はどの企業でもあるだろうが手がつかない。


ディスカッションを通じて見えるものは、PC管理はあまり進化していないのではないか、ということである。10年来の習慣で、現在では不要なのに継続されている手続きがあったり、さらにもう一歩踏み込めば効率化できるところを、洞察力が足らなかったり、その手前で各種制約に縛られてわざわざコストがかかると知りながら変えない、変えられないということが一般化している。


PC管理を専門家であるアウトソーサに委託している場合、往々にしてアウトソーサは改善の機会に気づいているのにも関わらず、あえて提案をしないことが多い。

なぜなら顧客に情報を与えない方がアウトソーサ側に利益を内部留保できるからである。

  

場合によっては改善さえも意識していないことさえある。


結果としてこれらから言えるのは、企業内のPC管理は今まで通りのやり方で「維持管理」しているに過ぎないということではないだろうか。


「維持管理」とは文字通り、「少なくとも悪くはならないように、今までの状態を維持する管理」ということであり、毎年同じことの繰り返し、サービスレベルの下限値確保の活動に他ならない。逆にいえば、維持管理している限りはサービスレベルのより高い目標値やコスト削減に向けては何の改善もされないということである。

PC管理はどうあるべき?

それではPC管理とはどうあるべきなのか。維持管理でなく、あえて言えば「運用」ということになろう。「なんだ、『維持管理』のことを『運用』って言うじゃないか。同じだよね」と言うなかれ。


金融の世界での「運用」とは投資の価値を上げること、平たく言えばお金の特性を生かし、そのままの額で「維持する」のではなく、「増やす」ことをいう。  また「制度運用」というのは制度を単に実施することを言うのではなく、現状をよりよくするために制度に込められた理念や効果を実現していくということである。辞書を引けば運用とは「そのもののもつ機能を生かして用いること」ということである。  すなわち「PC運用」というのはPCに込められたその機能や効果をいかに有効化するかということになるわけである。


簡単に言えば「PC運用」とはただPCの修理をしたり、PCを配ったりということではなく、PCの機能や効果の有効化を、それをいかに適正なコストやスピード・効率で成し遂げるのかを常に考え、実現していくという“活動”と表現できる。


「PC運用」が適切に行われていない事例を見ると、特徴的なのは上記のような方向性が希薄で、その殆どがミクロの問題でつまずいているという点である。
以下のような事例は周辺にないだろうか。

 

・PCの資産管理がうまくいかないので、資産管理ツールを探している。

・PC購入に時間がかかるのでPCの増設や更新に時間を浪費してしまっている。

・PC設置時の現地作業内容が多いので、更新が効率的に進まない。


「PC運用」について考える時にPC管理のテクノロジーとともに大きく重要なのは「業務運用」である。業務運用を考える時に「ツール」だとか「他部署」だとか「ベンダー」だとかを切れ切れに考え、その制約の中だけでの議論では業務運用は単なる小さな範囲での手順を策定するだけの話になってしまう。実行効果も限定的にならざるを得ないと言える。


特にPCの場合には関連部署が多く、関わるベンダーも複数であろう。またPC運用はユーザ満足度とセキュリティ遵守に代表されるガバナンスといった一見相反する要件をも満たさなくてはならない。それらを含め「PC運用」を考えない限り「PCの機能や効果の有効化を、それをいかに適正なコストやスピード・効率で成し遂げるのか」を解決することはできないのである。


これでおわかりかと思うが、PC管理には関係者をいかに巻き込み、全体最適化できるかという非常に高度な業務設計能力(場合によっては制度設計能力)が必要とされる。更には、それを実行・実現するための政治的、施策的な能力をも必要とされる。

PC管理は再考の時

PC運用という言葉は経営からも見過ごされがちな地味な存在だと言われるが、実はPC運用のIT運用予算に占める割合は1/4近くを占めるに至ってきている。

(ハードウェア、ソフトウェア費用も含む;07年10月:野村総研調査)

また、前述のように、実は非常に高度な業務でハードルもいくつもあり、またコストも高い。


PC導入から十数年がたった今、他社での取り組みや情報交換などを通じ、自社のPC運用のレベルを同定するとともに、今後のPC運用に目を向けることが必要であろう。そして現行のやり方を検証・再整理し、全体最適化するとともにコストや品質の見直しをし、継続的な改善プロセスを埋め込んでいくのは、情報システム部門の担当・責任者としては必要なことなのではないだろうか。


PC運用の再考を強くお勧めする。

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