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野村総研からの提言

【第6回】PC運用ツールの適用におけるケーススタディ<バランス発想法> [更新:08/03/21]

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松下 浩一
株式会社野村総合研究所
上級システムコンサルタント

運用に必要な作業のひとつひとつを見てみれば、その多くはとるに足らない作業である場合が多い。しかし、PCの運用においては、それに台数が掛け合わされることで、膨大な作業量が発生し、万一失敗した場合には影響範囲が広きに及んでしまう。そのため、PCの運用に関わる者は、作業を確実かつ効率的に進めるための支援ツールを開発し、適用した経験があると思う。弊社でも数多くのツールを設計・開発しているが、その実務を通じ、さまざまな要素のバランスをとって作業を進めることが非常に重要であることを痛感している。本記事では、『バランス発想法』ともいうべき、そのエッセンスについて、述べる。

バランス発想法

(1)PC運用におけるバランスの基本的な考え方

現在の一般的な企業において、誰でも簡単に使用できるPCは広範囲に普及する一方でその機能は高度化し、管理は複雑化している。従って、一部のITを生業とする企業を除けば、一般の利用者に設定変更などを行わせることは現実的ではない。

実際、不慣れな作業を利用者に行わせれば、操作ミスによる不具合が必ず発生し、管理部門はリカバリーに多くの時間を費やすことになる。加えて、利用者の業務が滞ることによるビジネスの損失も招くことになる。操作ミスが起こらないよう十分に準備すればよいという考え方もあるが、利用者にそういった作業を行わせるための説得含めた準備に多くの時間を費やしたにもかかわらず、期待する結果が得られないことを痛感している方も多いと思う。つまるところ、PC運用の基本とは「利用者は何もしない」を実現することなのである。


(2)PC利用者と運用管理者の作業バランス

「利用者は何もしない」といえば聞こえは良いが、実際にできるのかと言うと難しい側面もある。利用者の行動を全て想定してロジックを組もうとしても、それらを網羅するための期間や費用が現実的でないことは多く、想定すらできないこともある。


しかしである。少なくとも「ルールに従っている」利用者、「通常の使い方」をしている利用者は「何もしなくていい」くらいの実装は可能なはずだ。欲を言えば、通常よく発生する「変更」についても利用者が「簡便」な操作で対応できるようにする程度はやれる。作業バランスの基本は、運用管理者側で設定、確認、リカバリーを可能な限りリモートで行えるようする一方で、利用者側に対しては、「ルールに従った」使用と「正常性の確認/異常の申告」程度の期待としたい。


(3)自動化と手作業のバランス

サービス対象となるPCの数が膨大である場合、自動化は必須である。ところが、実際のPC環境は一定ではなく、加えてネットワークの遅延など外的要因もあり完全に自動化することは期間/費用ともに現実的でない場合が多い。従って、人手によるフォローもまた必須であり、自動化とのバランスを取ることになる。

経験上、PC側設定変更作業に加えて、運用管理者側の設定作業および確認作業も自動化すると作業全体の品質が向上し、効果が大きい。我々の場合は、これに加えて量的な判断のもとにリカバリーについても自動化、少なくともリモート操作を実装し、設置場所での対応を極力削減する努力を行う。さらに切り分けやフォローがスムーズに行えるよう調査機能も実装する。業務影響を考慮すれば、極力リモートで対応できる工夫は、特に業務影響を回避するために重要である。

ともすれば、自動化し易い部分を自動化し、難しい部分を置き去りにしがちであるが、量的な判断を誤るとフォローしきれなくなることに注意が必要である。1,000件/日の作業で10%の失敗が想定される場合は、自動化していないと対応しきれない(かつて、急遽30人体制を組んで対応せざるを得なかった苦い経験がある)が、1%程度なら、通常保守体制による駆け付けでも十分対応できるのである。


(4)既存方式と新方式のバランス

IT技術の進歩は著しく、インフラの機能も拡張され、新しい方式を容易に実装することが可能になってきている中、既存の手法にとらわれることなく、新しい手法の導入を検討することが肝要であることは言を待たない。ただし、あくまでも新手法の導入は手段でありそれによって革新される運用の向上こそが目的であることを忘れてはならない。

新方式導入において、利用者の運用変更を伴う場合は特に注意を要する。我々から見て多少使いづらい操作でも一旦慣れてしまえば、これを大きく変えることにはかなりの抵抗があるのが普通である。以前、ある案件でのユーザ操作変更についてお客様のご意見を伺った際、「便利になるのであれば文句は出ない」という言葉をいただいたが、逆に言うと「便利にならない変更は不可」ということである。新方式の導入にあたっては、費用のみならず、このような運用上の利便性を利用者の立場で十分検討しながら方式採用のバランスをとる必要がある。どうしても操作性が大きく変わる新方式を導入する必要がある場合は、段階を踏んで導入するなど、利用者側が慣れる時間を与える必要がある。システム変更は簡単だが、人は簡単にはついてこれない。


バランスをとるためには

バランスを取るということは、とりもなおさず、定量的に評価をするということであるが、そのためには、運用実態の定量的かつ継続的な把握が必須である。我々は、これを実現するプロセスが、本題のツール適用のみならず、運用レベル全体を左右する重要なファクターと捉えている。従って、そのプロセスの運用を確実なものとし、かつ、その改善を進めていくために、日々注力している。

より本質的な解決へ

そもそも、設定変更作業などしなければ、ツールの開発は不要となり、失敗のフォローも必要無い。最大の解決は設定変更作業そのものを無くすことであり、それを実現する知恵を如何に出せるかがアウトソーサの力量である。

運用アウトソース側の論理としては、その作業を改善しなくても・・ましてや努力して作業そのものをなくすなど、タコが足を・・・という側面が必ずあるが、改善を行いながら不要な運用を削減することで、運用全体のレベルを向上させることが「アウトソーサ」の役割と認識している。


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