
岡崎 誠
株式会社野村総合研究所
主席システムコンサルタント
岡崎 誠
株式会社野村総合研究所
主席システムコンサルタント
前回、320社アンケートによる、PC管理に係る委託形態や問題点についての報告をさせていただいた。コストについても年間・台あたり1万円台後半から2万円中盤までが大多数であるということが分かった。実はこの質問についての有効回答数は320社中の52社、つまり16%の回答率である。コストという微妙な件についての質問でもあることから、回答を控えられたという感があるが、コスト自体が把握できていないケースも多いのではないかと思う。PC管理のご担当に直接お会いしてお話を伺う機会も多いが、PC管理コストを押さえておられない場合が多いことは第一稿でものべた通りである。
一方、「PC管理の課題」とした質問の中で「PC管理コストが高い」(複数回答可)という問題意識のある会社は320社中252社(79%)にも上っており、コストの問題はやはり皆様の一番の関心事であることに間違いはない。
今回はこのPC管理コストについて少し掘り下げてみたいと思う。
PC管理コストは、
(1) 外部委託コスト
(2) 自社要員コスト
に大きく分けられる。「PC管理コスト」と言われると(1)であるとの認識が強い。それは外部流出コストであり、ある意味でコントローラブルである、という思いからだ。一方自社要員コストは内部コストであり、これをコントロールしても、会社全体のコストからいえば変化がない。という考え方があるからだ。
本当にそうだろうか。本稿では(1)、(2)の両方の切り口でPC管理コストを考えてみたい
外部に委託する部分と社員が実施する部分については企業により千差万別である。ここではまず、どのような外部委託形態があるのか整理していみたい。
PC管理の委託形態の構造を大まかに分類してみると(図1)のような模式図で分類されるだろう。
PC管理のレイヤーを「企画」「運営・調整」「足回り」と3層に分けてみる。傾向として(1)、(2)は比較的大規模のPC管理をされている企業。(3)→(4)となっていくにしたがい規模的には小さくなっていく。オール自社運営はPC保有台数としてはせいぜい500台が上限である。それ以上となると部分的にでも外部委託したほうがコスト的には有利であるということであろう。
外部委託の問題点は一般的標準価格が無い。ということである。PC管理はサーバー運用やホストコンピュータの運用と異なり相当部分を人手でやらなくてはならない。調整業務など自動化できない部分も多々ある。そのような観点からいうとどちらかというと人月価格の世界になり、人売りに近い話になる場合が多い。つまり時価でござい、ということになる。
外部委託コストが増加する要因は請負側、委託側のそれぞれにある。
請負側要因の最たるものは、定常的作業などについてのコスト低減の改善を基本的には行わない、ということだ。一般に運用的作業は学習効果や機械化効果で下げることが可能である。しかし請負側はそれを積極的にやることによる自らの利益低下というジレンマを乗り越えることができない。つまり、「じっとしておく」に越したことはない、という論理となり、結果として委託側からみてコストが下がることはない。
委託側に起因するものとしては、複雑な作業や調整を外部ベンダーに委託する傾向があるということである。これにより所要工数が増加し、結果としてコスト増となってしまう。各社独自の運用を求れば求めるほどコスト増になってしまうということである。
そもそも他社と差別化しなくてはならない業務アプリケーションならいざ知らず、PC運用とは各社独自の運用をしなくてはならない要素はほとんどない。どの企業もPC関連ではヘルプデスクや障害対応、資産管理や増設、回収などの業務要素が定番であり、それ以外の要素が個社独自に必要であるというのはレアケースである。いわばPC管理はもっとも標準化しやすいIT業務といえるのではなかろうか。
なぜ、PC運用において個社の独自性を必要とされてきたのか。理由は様々であるが連綿たる歴史を持つPC管理を引き継ぎ、今では不要となった手続きや調整が必要である場合が多い。
また、個々のユーザの要望をすべて受け入れようとするあまり、運用業務が複雑化し多くの工数が取られてしまっているのではないか。
前稿でも述べたようにPC管理はガバナンス強化とユーザ満足度向上の狭間で微妙なコントロールを必要とされるのだが、そのバランスが崩れるとコスト増加を招くこととなる。
そろそろ「PC管理の世の中的標準化」なるものが確立されてきて然るべき、と思う。
自社要員コストとは文字通り自社社員がPC管理にかかわっているコストである。先にも述べたように、社員コストは外部委託コストと異なり、人月工数が減れば、会社としてのコストが下がるという代物ではないため、なかなかメスが入りにくい。
ただ注意しなくてはならないのは、「社員で(PC管理は)内製化しています」の実態として、社員の方だけでは業務量が追い付かず、たとえば派遣社員などの外部要員の補助を得て業務を遂行している場合が比較的多いということである。
外部要員のコストは大したことない。ほかの事務補助作業のついでにやってもらっている。などの意見も出るが、そのようにしているうちにその数が増殖している場合がある。厳密にはこれらのコストは外部流出コストである。
よくある議論は、「外部委託側で十分やれていない部分を社員(および外部要員)がカバーする」といった本末転倒的な話しや「外部委託を管理するために必要」などである。
管理側の人間の数を増やすことにより業務処理のスループットを上げるという考え方は実は大きく間違っている。なぜならば人は「仕事を作る」からである。
管理側の人間は「管理しなくてはならない」を追い続けると、様々の手続きや規制を作り、様々な資料をつくる、つくらせる。それが社内や外部委託者側の対応工数を増やし、コストを上昇させる。さらにこれらの仕事そのものが人のレゾンデートル(存在理由)になり「このひとがいなくなったらまわらない」という既成概念を植え付ける。多くの場合はいなくなってもなにも変わらない。そのようにして、更なる人の必要性を求め、また増員する、といった悪循環に陥ることがある。
コスト削減のためのアプローチは企業のPC管理状況によってまちまちであろう。よくある間違いは、部分部分のコストに捉われすぎ、ツールを入れたり、一部分の自動化をしたりする部分最適型を取ることである。
たしかに「その」部分のコストは下がるかもしれないが、その部分に前後するプロセスや管理する配役などの負荷が増えてしまう場合が結構ある。全体としてコストは実は下がらない。となっては意味がない。
やはり正道のアプローチは、全体的にPC管理のプロセスを見直すということであろう。それには個社の事情や習慣などを棚卸し、前述のように標準化されたPC管理にプロセスを起こしなおすということであろう。「標準化されたPC管理」といわれても多分読者の方々は「PC管理で世の中の標準なんてどこにもお手本がない」と嘆かれると思う。
野村総合研究所では「標準化したPC管理」としてPC運用方法論「POMP」をまとめている。(図2)本方法論は、これまでのPC運用実績を集約し、効果的な設計・構築、運用業務要領までをまとめあげたものだ。
このような標準化されたPC運用のフレームワークを用いて、もう一度全体プロセスを見直すと、外部委託費用のみならす自社要員(あるいはその補助をしている外部要員)のコスト削減をすすめていくことをお勧めしたい。