
岡崎 誠
株式会社野村総合研究所
主席システムコンサルタント
岡崎 誠
株式会社野村総合研究所
主席システムコンサルタント
2008年10月10日に弊社主催にて、PC運用管理をテーマにした「ITサービスマネジメントのあたらしい形」と題したセミナーを開催した。 主にPC管理を中心とした事例や考え方そして新技術などを紹介させていただいたが、筆者が驚いたのは参加企業のご関心の高さだ。
当日は160名を超える方々のご出席をいただけただけでなく、セミナーの最後に記載いただいたアンケート調査では、95%の方がPC管理のアウトソースやその変革についてのセッションに興味をもたれた、ということだ。更にその中から、自社のPC運用の現状を把握するための弊社の無料アセスメントサービス「PC運用診断サービス」へのお申し込みが1割近くあったことだ。
自社のPC運用がどのようなレベルにあるのか。コストは適正なのか。といったご心配が各社に存在することを十分に認識できる数字であった。
ご来場いただいた企業や最近ご相談を受けるお客様像は概ね以下のような特徴をもたれているところが多い
(1)PCの台数が多い、大企業(数千台〜数万台)
(2)既存の協力会社やアウトソーサーに長期間一任して業務を実施してもらっている。
このセミナーやお問い合わせで訪問させていただいた、主に大企業のIT部門の方々とディスカッションをしていると、PC運用管理に対する見直し機運が大きくなってきていることがわかる。筆者が今年初めに提言させていただいた、「PC管理は再考の時期にきている」という主張どおり、各企業がITコスト削減のテーマとして「PC運用管理」部分をクロースアップし始めたということである。我が意を得たという感が強い。
日銀短観のここ3年間の変化を表したものである。2008年初めから経営者心理が景気下降へ急激に移行していることがわかる。特に製造業の心理の冷え込みは極端である。
出典:日本銀行調査統計局短観要旨を基に野村総合研究所作成
これに加えリーマンブラザース破綻に緒を発した世界金融危機である。株価はバブル崩壊後最安値を付け、輸出産業に大きな打撃となる為替についても大幅な円高となっている
輸出依存型の大手製造業だけでなく、消費者心理の低迷に影響される小売など非製造業も含め、コスト削減が大きなテーマとなり、ラストリゾートとしてのPC運用にメスが入ってきているということであろう。
2008年1月の投稿でも述べたが、既存のPC運用は10年前のPCが初めてオフィスに導入された当時から各社が各社なりに作り上げてきた運用形態を踏襲しているケースが多い。また、PC運用の専門委託会社やアウトソーサはユーザ要望を聞きながら、個社に合わせる形でオーダーメードで対応してきた。
筆者はこれらのPC管理状況は、多くの企業でこの10年間変革がされてきていないのではないかと見ている。通常運用は学習効果や積極的な自動化でサービスレベルも向上可能であるし、併せてコスト削減効果も出てくるものである。 10年間これらを封印してきたということは逆に言うと、本年当初に筆者が主張したようにPC管理には「宝の山」が相当に蓄積埋蔵されていると見えるのである。
その意味でこの時期PC運用管理はラストリゾートであると言えるのである。
宝の山であることも分かっている。ラストリゾートであることも明白だ。ただ、PC管理を大きく変えたことがない企業が殆どであろう。そんな簡単に変えられるのだろうか。疑問をお持ちの向きもあろう。ここでいくつか動き出すためのヒントを提示さしあげたい。
(1)自社内を動かす
実は今、PC運用管理を変えるには好機なのである。つまり今はかつてないほど変革推進がしやすい時期であるということだ。
PC運用のもっとも難しいのはエンドユーザがPCといったIT機器を直接利用しているということだ。PCやPCに係るサービスは「会社から無償で支給されている」という感覚が強い。よってガバナンスも効きにくい。サービスの標準化もしにくかったのではないだろうか。
ところが、このような経済情勢下となり、企業内にはコスト削減圧力が高まってきている。経営者もなりふり構っている余裕はない筈である。PCを利用している企業内のエンドユーザもそれを意識せざるを得ない。トップダウンでPC運用のやり方を変えるのもしやすい。 「PC運用を変えてコスト削減する」というのは大袈裟にいえば今は千載一遇のチャンスなのである。
(2)委託を見直す
PC1万台以上を保有しているような大企業では自社要員のみでPC管理を行うことは不可能である。多寡はあるにせよある部分(場合によっては全て)のPC管理をベンダーに業務委託やアウトソースしている。
現行のベンダーは一所懸命汗を流してPCの運用管理を遂行していると思う。ただ、やはり多くの顧客企業とディスカッションしていると、
・言われたことは確実に一生懸命実行してくれるが、顧客からの指示待ち。
・コスト削減やサービスレベル向上に関するような提案を自発的にしてくることがない。
と異口同音に言われる。
PC管理業務をアウトソース、と捉えたとき、アウトソースとはそもそも顧客の業務のうちのノンコア業務を一括で請け負い。「顧客企業として」業務を遂行することである。
ということは顧客企業として、顧客とともにその業務に対する価値創造が必要ということでもある。ノンコア業務だから価値創造は不要、というのでは本当のアウトソーサとは言えない。この価値創造にモチベートされていないベンダーのアウトソースでは顧客の指示によってのみ動く派遣型アウトソースになってしまう。顧客だけでなくベンダーも幸福とはいえないのではないだろうか。
現状の委託先が「価値創造にモチベートされているベンダー」でないとすれば、価値創造を共に実行していけるベンダーに変えるべきであろう。
(3)スイッチングは3か月
もうひとつ、PCアウトソースの切り替えは敷居が高いのではないかという懸念があろうかと思う。多くの企業のPC管理を実施していると、PC運用の基本的な部分は実はある一定範囲であり、どの企業もかなりの部分が似たり寄ったりなのだ。標準化できるのである。個社特有の部分があるとすればそれはPC運用の基本部分ではなくその上にのるいわばアプリケーションレイヤなのだ。
通常我々は1万台を超えるような大規模PC運用管理の切り替えでも3か月で業務引き継ぎ、運用設計、実施体制整備を完了している。それは前ベンダーの業務をそのまま引き継ぐのではなく、改革を埋め込んだ運用設計をすべて見直していくからである。
今回「1万台を超えるPC保有企業にお伝えしたい。」と銘打っているのは、特に1万台を超えるPCを保有している場合、PC一台当たりの運用コストを多少でも下げればレバレッジが利いて実は多額のコストをセーブすることができ、その効果が大きいからである。
また、繰り返しだが、不況突入が懸念されるこの時期、長年変えられなかったPC運用管理を大きく標準化し、変えていくことができるまたとないチャンスでもある。今までの個社毎のやり方を例えば自動化を追求し、例えば他社と同様の標準化されたものにする、ASPサービスなどを使うなどにより多額の運用コストは下がるのである。
大きなチャンスは目の前にある。是非この機に動かれるように強くお勧めする。